京都芸術大学映画学科 卒業生の活躍をクロースアップするとともに、それまでの道のりを振り返る特集「轍(わだち)」。

初回となる今回は、京都・出町座にて上映中の『二重のまち/交代地のうたを編む』(小森はるか+瀬尾夏美監督) に“旅人”のひとりとして参加した米川幸リオンさんを特集します。映画監督・俳優である鈴木卓爾さんとの対談のほか、ターニングポイントとなった作品『人間シャララ宣言』(柘植勇人監督)の公開、そして『二重のまち/交代地のうたを編む』の関連動画やレビュー、作品情報などをご用意しました。


プロフィール

​米川 幸リオン

​​Yonekawa Kou Leon

1993年三重県生まれ。父親がイギリス人、母親が日本人のニッポン人。京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)映画学科俳優コースと映画美学校アクターズコースを卒業。主な出演作品は、チェルフィッチュ『三月の5日間』リクリエーション 、チェルフィッチュ『消しゴム山』/『消しゴム森』、小森はるか+瀬尾夏美『 二重のまち/交代地のうたを編む』、ミヤギフトシ『感光』など。また【伯楽-hakuraku-】のメンバーとして、岩手県住田町でのインディペンデント映画の企画〜上映までも行なっている。


リオンと散歩(対談:米川幸リオン×鈴木卓爾)

リオンさんのことを学生時代から知る、映画学科教員であり映画監督・俳優の鈴木卓爾さんと二人で散歩をしながら、これまでの道のりとこれからについて対談していただきました。在学中のこと、ターニングポイントとなった作品、卒業後のこと、『二重のまち/交代地のうたを編む』に参加した経緯など、のんびりとした打ち合わせからお楽しみください。

『リオンと散歩』

ターニングポイント

転機となった瞬間を取り上げるターニングポイント。
ここでは、「作品」や「人」「出来事」など、様々な事柄の中から大きく変化した瞬間をうかがいます。

『人間シャララ宣言』柘植勇人監督

大学在学時に出演し、リオンさんが演技について考えるきっかけとなった映画『人間シャララ宣言』。今回は特別に、全編を公開します。学生時代のリオンさんのお芝居にも注目です。
(2015年度・京都芸術大学(旧・京都造形芸術大学)卒業制作作品)

『人間シャララ宣言』予告編

リオンさんのコメント

映画はつくりたい、でもなんで映画をつくりたいのかは、よくわからない。三回生も終わりの頃。大学を辞めてしまった友人は、なんだか生き辛そうにしているし。選挙に行っても、デモに行っても、僕たちの生活は、この国は、全然良くならない。正直な話、このままだと映画どころじゃない。そんな状態。モーマンタイとはよう言えない。「アイツに”ただ生きてる、それだけでいい”って映画つくらない?」捉えている視野としては、すごく狭いのかもしれない。でも、それだったら、おれにもできるかもしれない。
初めて自分以外の人のために演技をしたのが、この作品です。僕は、この映画で俳優になりました。

『二重のまち/交代地のうたを編む』

リオンさんが自らオーディションを受け、4人の旅人のうちのひとりとして参加した映画『二重のまち/交代地のうたを編む』。作品を実際に鑑賞した学生によるレビューをお届けします。

レビュー

「2031年・春」このプロジェクトに“旅人“として参加した古田春香の声によって語られることで、あったること(=本当にあったこと)として観客が想像した2031年の世界に、あわせて映し出されるのは撮影時点の2018年の陸前高田の姿である。聴覚情報と視覚情報のギャップに、戸惑う人もいるのかもしれない。けれど、そこから私が感じたのは紛れもない心地よさだった。
古田によって語られるのは、映像作家・小森はるかと共に陸前高田で活動し、聞いた話を語り直すよう書いた瀬尾夏美『二重のまち』の春のパートである。嵩上げ工事を終えた上のまち。そこで生きる男の子が語りはじめるこの物語は、彼のお父さんが語る下のまちの話を聞き、彼自身が語り直しているものである。かつてのまちを見たことがない彼の語りとともに映し出される映像。それは、彼が想像したかつてのまちの姿であるかのように思わせる余地がある。映し出されたかつてのまちの現実感を、未来からの語りが和らげ、それがフィクションのように観客の目に映ることもあるのだろう。
映画をドキュメンタリーとフィクションに区別するのは野暮である、と思いながら、便宜的にカテゴライズするのなら、この映画はドキュメンタリーと呼ばれるはずだ。しかし、単に映し出されたものを見届けるだけでは、この映画はきっと完成しない。想像を巡らす余地が大いにあるこの映画を通して、瀬尾や小森は4人の旅人のみならず、観客も出会わせているのだ。
聞くだけでは決して埋められるものではないからこそ、目で見えるもの以外にまで、想像を巡らせること。そして(語れなさも含めて)語ろうとすること。『二重のまち』で語りはじめる男の子の姿は、実際にモデルとなった人の話を聞き、語り直すこのワークショップに参加した4人の旅人や、聞いた話を自ら語り直す形で『二重のまち』を執筆した瀬尾の姿に重なるものがある。そしてそれは、観客である私たちの姿にも重なるはずである。
このページに掲載した米川×鈴木卓爾の対談やワークショップを受けて古田が作った曲『生きて』。これらの動画からもわかるように、 4人の旅人たちは、今も逡巡を続けながらその後の時間を生きている。目の前にあるものだけではない拡がりをみせるこの映画に出会ってしまった私も、言葉で固定してしまうことに躊躇いを覚えながら、それでも言葉にしたい、と思い、この文章を書いている。出町座での初日上映後、瀬尾が話した「出会ってしまったら伝えるのが人間の性である」という言葉通りに、出会ってしまった人々は、単に映画や小説を人に勧めるのとは違い、非当事者ではあるものの、決して他者ではない感覚を持ちながら、当事者と他者とを繋ぐ媒介者になるのだろう。

2011年の震災と、語られる2031年。その中間に位置する2021年にこの作品や小森はるか監督特集を見届けることは、記録されたその場限りのものを通して、現在の立ち位置を見つめ直すきっかけになるはずである。そしてそれは、4人の旅人や瀬尾・小森、そして私たち観客が、時間を経るなかで生みだしてゆく変化と不変を、時間をかけて顕在化させてゆく作品であるようにも思う。そのはじまりを、まずは見届けて欲しい、と私は願う。

映画製作コース・中川鞠子

『生きて』古田春花

『二重のまち/交代地のうたを編む』で、リオンさんと同じく”旅人”のひとりとして参加した古田春香さん。新潟在住のシンガーソングライターとしても活躍する彼女は、ワークショップを受けて『生きて』という曲を作りました。
映画公開に合わせて公開されたこの動画は、語り直すこと以外でも媒介をつづける古田さんの姿を記録したものとなっています。ワークショップから半年が経過し再集結した4人の旅人たちの姿もぜひ見届けてください。撮影は小森はるかさん。

コダハルカ「生きて」2019年3月31日 @せんだい3.11メモリアル交流館

関連作品情報(出町座上映情報)

『二重のまち/交代地のうたを編む』

米川幸リオンさんは、この作品において夏のパートを自らの声で語り直しています。レビューでは、春のパート・古田春花さんに焦点をあてて書きましたが、リオンさんはもちろん、秋・冬のパートを自らの声で語り直す、坂井遥香さん・三浦碧至さんの姿にも心を打たれました。その姿をぜひ劇場で。

『二重のまち/交代地のうたを編む』予告編

『【特集上映】映像作家・小森はるか作品集 2011-2020』

『二重のまち/交代地のうたを編む』で監督を務められている小森はるかさん。
京都・出町座では、現在、小森はるか監督の特集上映も開催しています。
作品のなかには、今回ともに監督された瀬尾夏美さんの姿も。
震災から10年が経ったこの春に見つめることは、陸前高田のまちや小森さん・瀬尾さんの10年間の歩みを知ると同時に、その作品を通して、皆さんの感じた<いま>を知ることにも繋がるはずです。

「出町座」上映スケジュール

4/27(火)9:40-『二重のまち』/11:20-作品集【A】
4/28(水)9:40-『二重のまち』/11:20-作品集【B】
4/29(木)9:40-『二重のまち』/11:20-作品集【C】

4/30(金)~5/6(木)9:10-『二重のまち』(5月6日(木)終映)


出町座ドキュメンタリー通信

映画学科5期生であり、現在、出町座スタッフの城間典子さんが作成した「出町座ドキュメンタリー通信」もあわせて公開します。

vol.4 小森はるか監督『息の跡』『空に聞く』
vol.5 小森はるか監督+瀬尾夏美監督『二重のまち/交代地のうたを編む』
vol.6 映像作家小森はるか監督特集(2011-2020) そして『二重のまち/交代地のうたを編む』

※ vol.4・vol.5・vol.6ともに、現在、出町座で配付中
※ 不定期発行