PFFとわたしたち 特別対談
「ぴあフィルムフェスティバル」とわたしたち
特別対談:工藤梨穂 ✕ 東盛あいか
工藤梨穂
KUDO Riho
1995年生まれ、福岡県出身。京都造形芸術学部の卒業制作『オーファンズ・ブルース』で、PFFアワード2018グランプリ、ひかりTV賞をW受賞。その後、テアトル新宿はじめ、全国の劇場で公開され、話題を呼んだ。
東盛あいか
HIGASHIMORI Aika
1997年生まれ、沖縄県出身。地元の与那国島には映画館もレンタルビデオ屋がなく、進学した石垣島の高校時代にレンタルDVDで映画を観始める。京都芸術大学で多方面から映画について学び、現在は俳優事務所に所属。
出会いと「ぴあフィルムフェスティバル」
工藤:東盛さんは、私が4年生の時、1年生でしたよね? 「めちゃくちゃ雰囲気のいい子がいる」みたいな話を、同期ともしていて、どんな人なのかな、とはずっと思っていました。
東盛:初耳です。
工藤:あんまり言ったことがないので(笑)。
東盛:私は、工藤さんの存在は知っていたんですけれど、在学中にはあまり関わりがなくて。工藤監督の『オーファンズ・ブルース』が完成して、(京都芸術大学にて開催された)卒業制作展を観に行って。上映後に舞台挨拶をされているのを見て、工藤さんだとわかって。ちょっとしたファンみたいな感じでした。私が先輩方とあまり関わりがなかったのもあったんですが、周りの1年生たちが先輩たちと仲良くしているのをすごいな、と遠目で見ていて。それこそ(『ばちらぬん』にも出演した、東盛の同期の)石田健太や山本桜が『オーファンズ・ブルース』に出ているのをすごいな、と思っていました。今思えば、もっと在学時にお話しすればよかった、っていう後悔が……。
工藤:自分も、どっちかと言えば後輩肌というのか、割と私は先輩と関わることの方が多かったんですけれど、もうちょっと後輩とも積極的に関わっていけばよかったな、と今となっては思います。
東盛:「ぴあフィルムフェスティバル」の存在は、それこそ『オーファンズ・ブルース』で知ったんですよ。私は大学に入るまで、映画をめっちゃ観てきた感じではなかったんですね。なので、「ぴあフィルムフェスティバル」の存在もそれまで知らなくて『オーファンズ・ブルース』をきっかけに知って。大学に入学した時に、いつか与那国で映画を撮りたいな、とは思っていたので、それが撮れたら出したいな、という風にはやんわりと思いながら、卒業制作に向けて動いていました。自分の場合、映画監督をやりたいから、今回、監督をやった、というよりかは、撮りたいものがあったから監督をやった方が大きくて。撮ったら「ぴあフィルムフェスティバル」には絶対に出す、と強く思っていました。
工藤:そうなんだ。私も「ぴあフィルムフェスティバル」のことは、大学に入ってから存在を知ったんですけれど、映画祭の中でも本命の存在で、出さない理由がなくて。完成したら絶対出す、と決めていました。『オーファンズ・ブルース』の時は、背水の陣の気持ちで、これが通らなかったら、自分は今後一生、映画を撮るチャンスを掴めないだろうな、と思ってドキドキしながら応募していました。
映画を撮ること ——『ばちらぬん』と『裸足で鳴らしてみせろ』——
工藤:さっき、東盛さんが「監督をするよりも、撮りたいものがあったからこの作品を撮った」とおっしゃっていましたが、こういうものが撮りたいっていう具体的なことは1年生の頃からあったんですか?
東盛:地元の与那国島で映画を撮りたい、というのが一番大きくあって。そのきっかけは、島のこともそうだけど、おじいちゃんのことが大きかったですかね。自分がおじいちゃんっ子だったこともあると思うんですけれども。島の言葉こそが、今は消滅危機言語で、島が時間とともに変わっていく様子だったり、あとは島に帰るたびに祖父の老いを感じたり……。島と祖父を重ねて、どこか寂しさや悲しさに、焦る気持ちがあって。今、自分にできることで何か留められないだろうか、という思いが、与那国で映画を絶対に撮るんだ、という気持ちに繋がって。だから、監督をやりたい、というよりは、与那国で映画を撮りたい。その気持ちが強かったです。
工藤:監督をやりたい、という思いが先行するよりも、監督をするのはそのための手段でしかない、これを撮りたいから監督をする、そういった監督の方が自分は好きだな、と思っていて、それが聞けてよかったです。
東盛:4年生まで、同期や他大学の学生映画に俳優として出た経験はあったんですけれども、自分の代表作みたいなものがなくて、自分が主演の映画も欲しかったんですね。卒業制作って声をかけられるのを待つか、自分から探しにいくかのどっちかだと思うんですけれども、私は声をかけられるのを待つのが嫌だったので、自分で撮りたいものがあるから動く。そんな感じで卒業制作は始めました。『ばちらぬん』は、そもそも最初に出して通った企画とは、ほとんど違うものになったんです。当初、企画していたのは、与那国でオールロケの劇映画だった。でも、コロナがあって、組のみんなは島に行けないし、与那国では撮れない。フィクションを与那国で撮影するのは難しいな、となって。与那国島の全面協力をお願いすることも考えていたんですけれど、コロナだから、学生が来て大々的に映画を撮影するのも迷惑な話だろう、とそこからまた企画を練り直して……。なので、本当に転んで、転んで、という感じでしたね。
工藤:この代は本当に大変だっただろうな、と。自分たちとはまた違った苦労が、もう1つ大きく乗っかって……。また、東盛さんはさらに監督・主演以外にも、色々とされていて。
東盛:組のメンバーが少なかったので、他のみんなも、結構、兼任しているんですね。自分は監督・俳優、与那国のシーンは自分でカメラも回して。
工藤:自分でポチっとやって?
東盛:そうです。固定で置いたりしながら、あとは島にいる人に「ここ押すだけだから」とお願いしたり。
工藤:走っているシーンとかなかったですか? あれは?
東盛:島の人に持たせています。
工藤:そうなんだ! すごいな。
東盛:ほかに美術もやったり……。色々とやっていました。
工藤:与那国じゃないパート——ファンタジーパートって言ったらいいんですかね?—— それは、全部、京都で撮ったんですか?
東盛:ファンタジーパートですね。全部、京都で撮っています。
工藤:その部分はどういう風に考えていったのか、ちょっと気になっていて。
東盛:3年生が終わって4年生になる前の春休みに、卒制の前準備として、1人で与那国に帰っていたんですよ。その後にコロナが大変なことになって、ちょっと京都に戻るのは危ないんじゃないか、となって、長い間、島にいたんですね。その時に、島は大自然があって開放感があるんですけれども、TVで見る世界は違う。どこか違うパラレルワールドにいるみたいだな、と感じて。スマホとかパソコンで、組のみんなとZOOMで繋がることはできるけれど、京都とは全く違う生活をしている。自分が与那国にいて、仲間が違う場所にいたとしても、映画だったら、その2つの並行世界を繋げることもできるな、と。繋がりたいということをその時強く思っていて、それを映画になら落とし込めるんじゃないか思えた。2つの世界を交わらせる発想は、コロナがあったからできた発想でした。
東盛:工藤さんの新作『裸足で鳴らしてみせろ』はぴあのスカラシップの枠で制作された作品なんですよね?
工藤:そうですね。
東盛:学生映画ではできていたけれど、スカラシップでできなかったことって、例えば何かありますか?
工藤:1日撮影が伸びるだけで、たぶん何百万というお金が飛んでいく。人件費とかもかかっちゃうので、絶対にこの期間で撮りきらなきゃいけない、という縛りもあったりして。学生の時は、全然そんなことも考えたことがなくて、とにかく時間が限られていることが大きな違いですかね。
東盛:たしかに、映画学科で撮っていたら、人件費と機材費って全くかからないですもんね。
工藤:だし、場所借りるのも「学生です」って言えば、ちょっとお金を免除してくれたり。
東盛:見る目が変わりますよね、やっぱり。
工藤:良いなと思ったロケ地も予算に合わず、断念したこともあったし、その中でどうやるかっていうことなんですけれど、縛りのある中で難しいな、と思いましたね。東盛さんは、次の企画はあるんですか?
東盛:やっぱり私は、沖縄でリベンジして撮りたい思いがあるので、スカラシップを出せる権利がもらえるなら、という感じです。
工藤:頑張ってください! その時は、また監督で? 主演もしたいですか?
東盛:どっちもやりたいですね。主演じゃなくても、俳優として出たい。
工藤:やりたいことの比重は同じくらいなんですか? 監督として作品を制作するのと、俳優として演じるのと。
東盛:今のモチベーションは半々ですね。
工藤:監督と俳優をやる人って本当にすごいな、と思っていて。自分は『オーファンズ・ブルース』の時に、店員役でカメオ出演したけれども、結局カットしたんですよ。全然できない、ってなって。演じながら監督は絶対にできないな、と思いました。
「ぴあフィルムフェスティバル」と今後に向けて
東盛:社会人1年目になって、みんなそれぞれ仕事を始めている中で、同期と連絡を取った時に「みんなと一緒に映画をまた撮りたい」そんな会話を最近しました。
工藤:そうですよね。私もやっぱり未だにあります。同期とまた一緒にやりたいな、という思いは。そういう仲間ができたことが一番ラッキーというか。「ぴあフィルムフェスティバル」には、みんな集結するんですか?
東盛:今のところはまだ決まっていないですね。大阪の子たちもいるので、コロナの状況を見てどうかな、という。集まりたいことは集まりたいんですけれども。
工藤:ぴあの意気込みというか、上映が近くなって、今、思うことがあれば聞きたいです。
東盛:作品はもう出来上がっているので、あとは祈る事しかないんですけれども、宣伝には力を入れていきたいな、と思っていて。配信でも観ることができるので、沖縄のメディアにもお話を通して、宣伝していきたいな、と。
工藤:今、コラムも書かれていますよね?
東盛:沖縄タイムスで書いていますね。卒業制作展で学長賞を頂いた時に、沖縄の新聞や雑誌の取材があって、それをきっかけに人脈ができて、それを見て、活躍を知ってくれた方が声をかけてくださって。
工藤:今後は劇場公開とかも、視野に入れられているんですか?
東盛:沖縄の方から「映画館で観たい」というコメントをもらっていて、やっぱり上映したい思いがあるので、動いているところです。あとは、島に帰って凱旋上映がしたい。『オーファンズ・ブルース』も色々なところで上映されたじゃないですか。そういうのはどう動いていたんですか?
工藤:配給がついたので、自分が直接的に劇場を決めたわけではなかったんです!
東盛:そうなんだ。今、私は、全部1人で動いているので……。
工藤:1人で! 大変ですね。各地で上映できると良いですね。期待しております。
<後記>
『ばちらぬん』は、10月9日(土)〜10月15日(金)沖縄県・桜坂劇場での上映が決定しました。
対談日:2021年8月3日
工藤梨穂監督・最新作『裸足で鳴らしてみせろ』
青年たちは”世界”を鳴らす。どこへでも行けると信じて
「代わりに世界を見てきてほしい」という盲目の養母ミドリのためにナオミとマキ、二人の青年はレコーダーを手に”世界旅行”へ。旅の記録をテープに刻みながら彼らは次第に惹かれ合うが、”触れられない”二人が行き着く果ては…。
Let me hear it barefoot
2021年/カラー/128分
監督・脚本:工藤梨穂
出演:佐々木詩音、諏訪珠理、伊藤歌歩、甲本雅裕、風吹ジュン
上映情報:
「第43回ぴあフィルムフェスティバル」オープニングにてお披露目上映。(9月11日(土)14:30〜)
東盛あいか監督『ばちらぬん』
与那国の持つ記憶や文化を、個人の経験に重ねた実験作
与那国に積み重ねられた歴史や文化と、今そこにいない監督自身の物語。大きな時間に個人の経験を重ねることで、そこにいた人々の人生も想像させる。フィクションやドキュメンタリーの枠を超えた、土地と人々の物語。
2021年/カラー/61分
監督・脚本・撮影・編集・美術・与那国語指導:東盛あいか/撮影・VFX・カラーグレーディング:温 少杰/撮影照明助手・メイキング:西川裕太/録音・整音:西垣聡美、村中紗輝/制作・録音助手:木村優里/衣装:平井茉里音
出演:東盛あいか、石田健太、笹木奈美、三井康大、山本 桜
「第43回ぴあフィルムフェスティバル」での上映は、9月14日(火)14:30~/ 9月19日(日)14:30~の2回。
また、10月9日(土)〜15日(金)には、桜坂劇場(沖縄県)での劇場公開も決定している。
第43回 ぴあフィルムフェスティバル
開催日時:
2021年9月11日(土)〜25日(土)[月曜休館・13日間]
会場:
国立映画アーカイブ(東京都)
また「PFFアワード2021」は、DOKUSO映画館とU-NEXTで、9月11日(土)〜10/31日(日)オンライン配信も開催!
「第43回 ぴあフィルムフェスティバル」の詳細は、以下の公式サイトから